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大阪地方裁判所 昭和35年(ワ)104号 判決 1982年12月24日

甲事件原告(以下原告という)

矢野由蔵

乙事件原告(以下原告という)

矢野武雄

原告ら訴訟代理人

南利三

原告ら訴訟復代理人

駒杵素之

甲乙事件被告(以下被告組合ともいう)

大阪市東長居土地区画整理組合

代表者清算人

覚道作右衛門

甲事件被告(被告番号1)

本井宗一

外五名

乙事件被告(被告番号7)

増田英一

外三五名

被告ら訴訟代理人

堀川嘉夫

被告ら訴訟復代理人

町彰義

主文

原告矢野由蔵の被告大阪市東長居土地区画整理組合に対する訴のうち、同被告が同原告に対して昭和三五年三月三一日付でした別紙第一目録記載の(四)の換地処分の無効確認を求める部分、原告矢野武雄の同被告に対する訴のうち、同被告が同原告に対して同日付でした別紙第二目録記載の(四)の①③④の各換地処分の無効確認を求める部分は、訴を却下する。

原告矢野由蔵の同被告に対するその余の請求及び原告矢野武雄の同被告に対するその余の請求を棄却する。ただし、同被告が、昭和二四年三月二五日付でした原告矢野由蔵に対する別紙第一目録記載の(一)の各土地についての各仮換地指定の取消処分、原告矢野武雄に対する別紙第二目録記載の(一)の各土地についての各仮換地指定の取消処分、原告矢野武雄に対する別紙第二目録記載の(一)の各土地についての各換地処分(ただし、第一項掲記の部分は除く)は、いずれも違法である。

原告らの被告大阪市東長居土地区画整理組合以外の被告らに対する請求を棄却する。

訴訟費用中、原告らと被告大阪市東長居土地区画整理組合との間に生じた分は四分し、その一を同被告の、その余を原告の負担とし、原告らと同被告以外の被告らとの間で生じた分は原告らの負担とする。

事実《省略》

理由

一被告組合の本案前の主張について<省略>

二争点の判断に必要な前提事実

(一)  本件請求の原因事実中、(一)ないし(四)の各事実及び被告組合が、本件取消処分と同時に、本件施行地区の全域に亘つて、仮換地指定を取り消したこと、被告組合が、本件取消処分をするにつき設計書変更の総会決議を経ず、知事の認可を受けなかつたこと、本件換地処分による原告らの各従前地に対する減歩率が、原告矢野由蔵が80.29パーセント、原告矢野武雄が69.93パーセントであつたこと、以上の各事実は、当事者間に争いがない。

(二)  前記(一)の争いがない事実、<証拠>を総合すると、次の事実が認められ<る>。

1  被告組合は、大阪市住吉区長居町東四丁目、五丁目(昭和一四年当時の旧表示は、住吉区東長居町、西長居町、南長居町、苅田町)の約八万六、六三七坪六勺に及ぶ地域(本件施行地区)の土地区画整理を行う目的で、同年一月二四日大阪府知事の認可を受けて設立された。

組合員は、本件施行地区に土地を所有する者で、昭和一八年一一月二七日当時九三名であつた。

原告らは、いずれもその組合員で、原告矢野由蔵は副組合長であつたもの、原告矢野武雄はその長男である。

2  被告組合は、設立後間もなく本件施行地区の整地工事を開始した。右工事は、今次大戦によつて一時中断したが、昭和一八年一一月ころ、本件施行地区の全域に亘つて、道路の新設、改廃、地盤整備、下水道、暗渠の設置等が終り、概ね完了した。

3  そこで、被告組合は、同月二七日第八回総会で、本件施行地区の全域についての仮換地指定(本件仮換地指定を含む)を可決決定した。

当時、本件施行地区の大部分は農地であり、従前地の耕作者は、それぞれその仮換地で耕作するようになつた。それとともに、従前地の区画・形質がなくなつた。

4  わが国は、終戦直後、極度の食糧難に見舞われたため、本件施行地区でも、従来からの耕作者のほか、小作権その他正当な権原がないのに他人のいわゆる休閑地を利用して耕作する者があらわれた。原告矢野由蔵の別紙第一目録記載の(二)の各仮換地、原告矢野武雄の別紙第二目録記載の(二)の各仮換地も、このような耕作者によつて耕作された。

5  自創法が昭和二一年一二月施行され、農地改革が実施されることになつた。そして、住吉区農地委員会は、本件施行地区のほぼ全域に亘つて、自創法三条による買収計画を立てた。

自創法五条四号の規定によると、土地区画整理が行われている施行地区の農地で、知事が指定したものは、買収の対象から除外されることになつていた。しかし、当時、区画整理の施行地区内の農地であつても、現実の耕作者の了解なくしては、知事が右除外指定をすることは、困難な状勢にあつた。

6  そこで、原告らを含む被告組合の組合員らは、本件施行地区の全域に右買収除外の指定を受けるため、その条件を整えることにした。そして、被告組合の当初の事業内容を変更して、被告組合が本件施行地区の全域を宅地化し、そこに一団地住宅を建設することにし、他方、本件施行地区の土地の耕作者と、右買収除外の指定を受けることについて協議をすることにした。

7  被告組合は、昭和二一年一一月一四日開催された第一〇回総会で、前記6の方針に従つて、被告組合が一団地住宅の建設及び関連工事を行うことができるようにするための組合規約(一条一項)の改正を決議した。原告らも右総会に出席し、これに賛成した。

大阪府知事は、昭和二二年八月二八日、右組合規約の変更を認可した。

8  被告組合の組合長は、前記6の方針に従つて、昭和二三年七月二六日、本件施行地区の土地の耕作者の代表であつた訴外津田善之助、住吉区農地委員会の会長代理であつた訴外浜田捨次郎と協議をした。その結果、次のとおりの内容の覚書が交わされた。

(1) 本件施行地区の土地のうち、自創法三条の買収の対象となる土地については、その地主(組合員)が、右土地の二分の一(宅地)を、離作補償として、住吉区農地委員会からその土地の耕作者として提示のあつた者に無償で譲渡する。

(2) 被告組合は、できるだけ耕作地以外の土地から、順次一団地住宅の建設工事を進める。

(3) 耕作者らは、大阪府知事が、本件施行地区の土地につき、自創法五条四号の買収除外の指定をすることに異議を唱えない。

9  被告組合は、右覚書に基づいて、その後組合規約の変更、換地計画等を行うため、右覚書の基本方針について個々の組合員の同意を求めることにした。

ところが、組合員のうち、原告らは、原告らの別紙第一目録及び第二目録の各(二)の各仮換地の耕作者として住吉区農地委員会から提示された耕作者が無権限の耕作者であるから、これに対して離作補償をする必要がないとの理由で、右同意を拒否した。

10  建設大臣は、昭和二三年一二月一三日、被告組合の申請に基づき、被告組合が、一団地住宅を建設し、これを売却する事業を行うことを、分譲方法等について条件を附して特許した。

11  被告組合は、昭和二四年三月二五日開催された第一一回総会で、前記8の覚書の方針を実現するための基本的事項を三分の二の多数決で決定した。すなわち、

ア 組合規約(九ないし一二条、三〇条等)を改正して、一団地住宅を建設する土地の選択、その他の具体的事項に関すること、住宅建設に伴う離作補償の請求の当否及び補償金額は、いずれも評議員会で決定できることにした。

イ 組合規約(三二条)を改正して、換地処分を行うに当たつて、原則として組合員各自の減歩率を同率とするが、一団地住宅の建設用地はこの例外とし、右用地確保のためには、被告組合は、補償金を支払うことによつて、右用地の部分だけ高率の減歩率で換地を決定できることにした。

ウ 本件施行地区の全域の区画・形質を再編成するため、本件仮換地指定を含む本件施行地区の全域の仮換地指定を取り消すことにした。

右第一一回総会では、そのほか、組合の事業費を捻出するための起債等が議決された。

原告らは、右総会には欠席したが、その招集通知を右総会開催後に受け取つたことを理由に、大阪府知事に対し異議の申立を行つた。

大阪府知事は、同年四月三〇日、右総会の議決による組合規約の変更を認可した。

被告組合は、右総会で決議した事項について、被告組合の設計書の変更手続(旧耕地整理法五四条)をとらなかつた。

12  大阪府知事は、昭和二四年四月三〇日、自創法五条四号に基づいて、本件施行地区の全域を、自創法三条による買収の対象から除外する地域と指定した。これにより、本件施行地区の土地は、自創法による買収を免れた。

13  原告らは、本件仮換地指定がなされたころから、別紙第一目録及び同第二目録の各(二)の各仮換地を、管理人訴外前田常松を介して管理していたが、前記4のとおり、右各仮換地を耕作する不法耕作者が跡をたたなかつた。そこで、原告らは、昭和二五年、右各仮換地を耕作していた訴外前田末吉ほか一二名を相手どつて、原告らとの間に、それぞれ小作契約関係がないことの確認を求める訴を当庁へ提起した(当庁昭和二五年(ワ)第一五三四号土地明渡等請求事件)。そして、昭和三〇年八月二五日原告らの請求を全部認容する判決が言い渡され、右判決は、昭和三四年六月二六日上告棄却によつて確定した。

14  一方、被告組合は、前記第一一回総会以来、替費地を売却したり、住宅金融公庫から融資を受けるなどして事業資金を捻出しながら、本件施行地区の非農地から順次、住宅建設を進めた。そして、昭和三二年ころまでに、総戸数約一、八〇〇戸(その敷地は約四万一、四〇〇坪)の住宅を建設して、敷地とともにこれを分譲した。このようにして、本件施行地区は、分譲された住宅の周辺から急速に宅地化していつた。幼稚園、小売市場、公衆浴場等も設けられた。

15  被告組合は、昭和三二年一二月二九日、第一二回総会を開催し、組合員に対し、それまでの住宅建設の状況等を報告した。原告矢野武雄及び訴外津和正博は、右総会に出席し、決算報告に異議を述べた。

16  被告組合は、前記11の改正された組合規約三〇条、三二条に基づいて、前記8の覚書(1)を実現するため、本件施行地区の自創法三条による買収の対象となる筈であつた農地の耕作者に対し、離作補償として、坪当り金一五〇円を交付したが、その費用捻出の方法として、右耕作地の二分の一の面積を坪当たり金三〇〇円で替費地として売却することにした。

被告組合は、右の方法で離作補償を行うことに伴い、組合員のうち、その仮換地(前記11による取消前の仮換地)の区域が離作補償の方法として替費地処分の対象となつた組合員については、右各組合規約の規定に基づいて、一団地住宅建設のための用地の確保として、右替費地処分の対象となつた地積分だけ当然にその組合員に対する換地の地積から減じることにし、その分を金銭で補償することにした。

そして、被告組合は、昭和三三年七月三〇日開催された第三四回評議員会で、この方針に従つて、個々の組合員毎に、その仮換地の耕作者に対する離作補償金の額、それを履行するため同耕作者へ売却すべき替費地の地積を決定した。

右決定によると、換地の地積を減じられる組合員(地主)は合計三三名、替費地の譲渡を受ける耕作者は合計四七名、処分される替費地の地積は合計一万二、三四六坪であつた。

右決定により、原告矢野由蔵は合計六五〇坪を、同矢野武雄は合計一、四二六坪を、それぞれ後に交付を受けるべき換地の地積から減じられることになつた。そして、原告矢野由蔵の別紙第一目録記載の(二)の各仮換地を耕作していた訴外田中己之助、同奥田忠三郎、同田中重治、同奥野ヌイに対して、前記方法に従つて、合計六五〇坪の耕作地が、原告矢野武雄の別紙第二目録記載の(二)の各仮換地を耕作していた訴外井上鶴松、同田中己之助、同中條新生、同北田久太郎、同前田末吉、同浅田伊一郎、同井上正一、同奥野ヌイに対して、前記方法に従つて、合計一、四二六坪の耕作地が、それぞれ譲渡されることになつた。

ところが、中條新生、浅田伊一郎以外の前記耕作者は、前記13の訴訟によつて、原告らとの間に小作関係がないことが確認された、いわば不法耕作者であつた。

17  原告矢野武雄は、昭和三五年一月一三日、本件乙事件を、原告矢野由蔵は、同年二月一八日、本件甲事件を各提起した。

18  被告組合は、昭和三五年三月一一日開催された第一三回総会で、本件施行地区の全域に亘つて換地処分(本件換地処分を含む)及びこれに関連する一切の処理事項を決定するとともに、被告組合の解散を決議した。

原告ら及び訴外津和亀次郎、同津和正博は、右各表決に反対して中途退場し、右各表決には加わらなかつた。

大阪府知事は、同月三〇日、大阪府告示第二五〇号で、右換地処分を認可した。

大阪市長は、同日、大阪市告示第一〇〇号で、地方自治法二六〇条一項に基づく右換地処分に伴う町名改称並びに町区域変更をした。

19  原告矢野由蔵の別紙第一目録記載の(四)の換地と、同目録記載の(二)の各仮換地との位置関係は、別紙図面(一)、(二)のとおりであり、右換地の同目録記載の(一)の各従前地に対する減歩率は80.29パーセントである。

原告矢野武雄の別紙第二目録記載の(四)の各換地と同目録記載の(二)の各仮換地との位置関係は、別紙図面(三)、(四)のとおりであり、右各換地の同目録記載の(一)の各従前地に対する減歩率は69.93パーセントである。

これに対して、前記18の換地処分による原告ら以外の組合員の中には、それぞれの従前地に対する減歩率が約二一パーセントのもの(訴外山田繁蔵)、約三五パーセントのもの(同覚道作右エ門)、約三八パーセントのもの(同泰安治郎)、約四〇パーセントのもの(同房本辰造)、約四三パーセントのもの(同川口カジ)、約四九パーセントのもの(同覚道凱三、同小林源治)がある。

このように、組合員間で減歩率に大きな差が生じたのは、主に被告組合が、公共減歩、替費地(保留地)減歩として、全組合員につき、概ね三〇ないし三五パーセントの減歩率で、前記3の昭和一八年に指定された仮換地の区域内に換地をしたうえ、離作補償として自らの所有地を提供させられた組合員は、更にその分だけ高率の減歩率になり、それ以外の組合員との間に大きな差が生じたためであつた。

なお、原告らは、従前地の評定価格と換地の評定価格との差額清算金として、原告矢野由蔵が金一二万〇、五二〇円、原告矢野武雄が金二万九、四三〇円の各交付を受けた。

20  本件施行地区の全域について、前記18の換地処分によつて新町名で表示され、これに基づいて土地登記簿、建物登記簿も整備された。その後、換地を受けた組合員らは、その換地を次々に細分化して売却し、更に宅地化が進んだ。それに伴い、土地の分筆も幾多の変遷を重ね、原告らが受けた別紙第一目録及び同第二目録の各(四)の各換地も、現在では、別紙第三目録記載のとおり、権利移転がなされている。

現在、本件施行地区の全域は、民家の建ち並ぶ一大住宅地を形成している。

なお、被告組合は、前記のとおり解散後清算法人となり、昭和三八年一二月二四日大阪府に清算結了の届出をした。

三本件仮換地指定の取消処分について

本件取消処分は、重大且つ明白な瑕疵があるから無効である。以下、その理由を詳述する。

(一)  前記二の認定事実によると、本件取消処分は、本件仮換地指定処分が適法且つ有効になされたことを前提とし、後に事情が変更したことにより、将来に向つてその効力を消滅させることをその内容とする。したがつて、本件取消処分は、本件仮換地指定という行政処分の撤回に当たるとしなければならない。

ところで、仮換地指定処分は、従前地の所有者に対し、従前地の使用収益権を停止する一方、仮換地の使用収益権を与える行政処分であるから、処分を撤回すると、従前地の所有者は、以後、仮換地の使用収益権を喪失する一方従前地の使用収益権が復活することになる。

(二) このような効果を伴う仮換地指定の撤回は、処分によつて形成された法律秩序を否定することになるから、法的安定の要請上、処分庁といえども自由にこれを行うことができないことはいうまでもない。しかし、処分後の事情の変更によつて処分の効力を存続させることがかえつて公益に適合しなくなつた場合には、原則として、その撤回は許されるが、その場合でも、処分によつて形成された法律関係尊重の要請を無視することができないから、公益に適合するかどうかを判断するに当たつては、単にこれを必要とする行政上の都合ばかりでなく、当該処分の性質、内容やその撤回によつて相手方の被る不利益の程度等をも総合的に考慮して、これを決しなければならないと解するのが相当である(最判昭和四三年一一月七日民集二二巻一二号二四二一頁、最判昭和四七年一二月八日裁判集民事一〇七号三一九頁参照)。

(三) この視点に立つて本件をみると、次のことがいえる。

本件取消処分は、本件施行地区の整地工事がほぼ完了し、本件施行地区の大部分の従前地の占有状態がその仮換地へ移行し、これによつて従前地の区画・形質がなくなつてしまつた後、少なくとも約五年間経過後になされたものである。

原告らも、本件仮換地指定によつて、別紙第一目録及び同第二目録の各(二)の各仮換地を現実に使用収益していた(もつとも、前記二の(二)の4、13のとおり、一部は不法耕作者が耕作していた)が、本件取消処分により、右使用収益権を喪失することになつた。しかも、原告らの従前地である別紙第一目録及び同第二目録の各(一)の各従前地の区画・形質はすでになくなつていたから、原告らは、本件取消処分によつて、従前地の所有権に基づいて土地を使用収益する権利を剥奪される結果になつた。

また、本件取消処分は、本件施行地区の全域についての仮換地指定の取消処分の一つとして行われたから、本件施行地区に土地を所有する者(被告組合の組合員)のうちの多数の者が、右仮換地指定の取消処分によつて、原告らと同様の不利益を受けたことが推認される。

本件取消処分は、結局、被告組合の組合員らが、自己の土地が自創法三条によつて買収されるのを免れるため、被告組合の当初の事業計画を全面的に変更し、それを実行するため、その一環としてされたのである。しかし、このような目的は、もともと公益上の必要とはいい難いし、旧都市計画法、旧耕地整理法による被告組合設立の趣旨にも合致しない脱法行為というべきである。

被告組合の設立当初の設計書、組合規約(旧耕地整理法五〇条一項参照)に従えば、むしろ、終戦後間もなく、本件仮換地指定を前提とする本換地処分を行うことが、公益に合致していたといえる。

このようにみてくると、本件取消処分は、もともと、公益上の必要性もなく、また、それによつて原告らの被る不利益を度外視してされた点で取消(撤回)が許されない場合に該当するから、被告組合は、このような不利益を課す本件取消処分をするには、その総会の三分の二以上の多数の表決によつて決定することはできず、不利益を受ける原告らの個別具体的な同意を得ることが必要であるといわなければならない。

そうすると、本件取消処分には瑕疵があり、しかも、この瑕疵は重大且つ明白である。

四本件換地処分(訴を却下した部分は除く)について

本件換地処分も、重大且つ明白な瑕疵があるから無効である。すなわち、

(一)  前記三に説示したとおり、本件取消処分は無効であるから、換地処分は、本件仮換地指定に基づいてしなければならないことはいうまでもない。

ところが、本件換地処分は、本件仮換地指定が適法に撤回されたことを前提にして別個にされた点で、重大且つ明白な瑕疵があるとしなければならない。

(二) そのうえ、本件換地処分は、照応の原則(旧耕地整理法三〇条一項)に違反し、更に、旧耕地整理法上の土地区画整理組合として到底行いえない処分であつて、この点でも、重大且つ明白な瑕疵がある。すなわち、

被告組合は、前記二の(二)の16のとおり、組合規約を改正して、本件施行地区の原告らの土地(本件仮換地指定による仮換地)のうち、原告矢野由蔵から合計六五〇坪を、原告矢野武雄から合計一、四二六坪を、その耕作者への離作補償として、原告らの意思に反して、本件換地処分による換地の地積から除外している。その結果、本件換地処分による原告らの減歩率が、他の組合員の場合と比較して、異常に高くなつている。

しかし、このような換地処分の定め方は、いかに組合規約を改正し、組合員の多数の賛成による表決で決定しているからといつて、土地区画整理組合としては到底いえないのである。

(三) 以上のとおり、いずれの点からしても、本件換地処分には、重大且つ明白な瑕疵があるといわざるを得ない。

五事情判決の必要性について

(一) 原告らは、被告組合に対し、本件取消処分及び本件換地処分の無効確認を求めており、右各処分には、無効事由としての瑕疵があることは前に説示したとおりである。

(二) しかし、前に認定したとおり、被告組合は、本件施行地区の全域に亘つて仮換地指定を取り消して、全く別個の本換地をしてしまい、それを前提に土地の権利関係、利用関係が今日まで二〇年以上の長年に亘つて築かれてきたのである。

本件仮換地指定の取消(撤回)が無効になると、昭和一八年の仮換地指定が復活することになり、被告組合としては、これに基づいて原告らに対し約二万四、〇〇〇平方メートルについて本換地を進めなければならなくなる。しかし、そのようなことは、現在法律的にも事実的にも不可能である。つまり、権利をえた者は、取得時効を援用して対抗するだろうし、土地上に建てられた建物を収去するには、莫大な経済的損失を招来することになる。

したがつて、原告らとしては、被告組合に対し、損害賠償を請求することで満足すべきであり(勝敗は別である)、そのうえ、原告らは、本換地の一部を他に売却して利益をえているのである(本件仮換地指定が無効であることと矛盾する)。

このようなわけで、本件取消処分及び本件換地処分が無効であることが確認されると、公共の利益に著しい障害をもたらすことが明らかであるのに対して、前記無効な本件取消処分及び本件換地処分によつて原告らが受ける具体的損害は、右各処分の無効確認によつて多数の者が被る損害や社会経済的損失に比べるとより僅少であるといえる。

以上のことやその他本件に顕われた一切の事情、とりわけ本件が、我が国の戦後の一大変革である農地改革を背景としていること、本件提訴以来既に二〇年以上も経過しその間の社会的事情が著変したこと、本件施行地区が広大であり利害関係のある者が多数であること、原告らが本換地によつて取得した土地の一部を転売していること等を考慮したとき、本件取消処分及び本件換地処分の無効を現時点で確認することは、公共の福祉に適合しないといわなければならない。

なお、行訴法は、無効確認訴訟に同法三一条一項の規定を準用する旨の規定を設けていない。しかし、行政処分の無効事由も取消事由もともに違法性の程度の差にすぎず、重大且つ明白という極端な違法であつても、すでに既成事実が積み重ねられた結果、それを覆滅することが公の利益を害する場合がある。したがつて、無効確認訴訟でも、同項に含まれている一般的な法の基本原則に従つて、事情判決ができると解するのが相当である(最判昭和五一年四月一四日民集三〇巻三号二二三頁参照)。

そこで、当裁判所は、原告らの被告組合に対する訴のうち、原告矢野由蔵の別紙第一目録記載の(二)の仮換地指定の取消処分、原告矢野武雄の別紙第二目録記載の(四)の①③④の各換地を受けた本件換地処分の部分以外の本換地処分及び同目録記載の(二)の仮処分指定の取消処分について事情判決をすることにする。

六原告らの被告組合以外の被告らに対する請求について

原告らは、本件取消処分及び本件換地処分が無効であることを前提として、本件仮換地指定による別紙第一目録及び同第二目録の各(二)の各仮換地の使用収益権に基づき、右各仮換地上に建物を所有して各仮換地を占有しているとして、被告番号1ないし42の被告らに対し、その建物の収去とその敷地である仮換地の明渡を求めている。

しかし、前に説示したとおり、原告らが、被告組合との間で、本件取消処分及び本件換地処分の無効確認を求めることが訴の利益を欠くか、又は、公共の福祉に適合しないとして、許されない以上、原告らと被告組合以外の被告らとの間でも、右各処分の無効を前提にした民事訴訟は許されないというべきである。

そうすると、原告らが、別紙第一目録及び同第二目録の各(二)の各仮換地の使用収益権を有することを主張することができなくなるから、原告らの被告組合以外の被告らに対する請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないことに帰着する。<以下、省略>

(古崎慶長 孕石孟則 八木良一)

第一目録(原告矢野由蔵関係)<省略>

第二目録(原告矢野武雄関係)<省略>

第三目録<省略>

大阪市長居土地区画整理組合地区整理図(一)〜(四)<省略>

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